2017年07月12日

みなとみらいの風が運ぶ水素の未来

 

 宇宙で最も豊富に存在している元素は何かご存知ですか。それは、水素(H)。太陽や夜空に見える星のほとんどは、水素をエネルギーとして光っています。地球上では、水素はどこにあるのでしょう。水素は、無色無臭の気体ですが、単体(H2)の状態ではほとんど存在しておらず、化合物として無尽蔵に私たちの周りにあるのです。水素を含んだ化合物のうち、地球上で最も多いのは、水(H2O)です。宇宙に豊富に存在する水素が、地球では水に姿を変えていると想像すると、なんだか面白いですね。

 今、横浜市のみなとみらい地区近郊で、ハマ風を利用して水から水素を「つくって」、「貯めて」、「運んで」、フォークリフトの燃料に「使って」みるという、ユニークなプロジェクトが行われていることをご存知ですか。いったいどんなことが行われているのか、面白そうなので、様子を見に行ってきました。

 みなとみらい地区北側にある瑞穂ふ頭。倉庫街を埠頭の先端まで進むと、学校の校庭程の大きさの敷地が見えてきました。まず、目に入ったのは太い支柱。それを見上げると大きな白い風車が回っています。この風車は、「ハマウィング」と呼ばれる風力発電施設だそうです。タワーの高さ78m、風車の羽根にあたるブレードの直径はなんと80mもあり、一般家庭約500世帯分の消費電力となる年間約220万kWの発電を行っているそうです。この電力は、今、水素をつくるために使われています。

  • 横浜市風力発電所「ハマウィング」
    横浜市風力発電所「ハマウィング」
  • ハマウィング敷地内ハマウィング敷地内
    ハマウィング敷地内

 敷地内に入ってみましょう。まず、「ビューン、ビューン」というハマ風で回る風車の音が、等間隔で聞こえてきます。風車の支柱に近づいていくと、ロケットの搭乗口のようなものが見えてきました。どうやらここが、ハマウィングの入口のようです。階段を登って中に入ってみましょう。入ってみると、中は直径3~4m程の空間。見上げると、タワーの上部まで空洞になっており、壁に沿って梯子がずっと上の方まで続いています。これは風力発電の点検のために設置されている梯子で、整備者は安全装置を身に着けて、タワーの最上部まで登っていくのだそうです。点検大変ですね。かなりの勇気と体力が必要そうです。エレベーターが欲しいと思うこともあるでしょうね。

  • 横浜市風力発電所「ハマウィング」
  • 横浜市風力発電所「ハマウィング」
  • 横浜市風力発電所「ハマウィング」
蓄電池システム[(株)トヨタタービンアンドシステム]
蓄電池システム(株)トヨタタービンアンドシステム

 ハマウィングの外へ出ると、目の前に、白い「物置き」のような施設が並んでいます。その内の一つの施設の観音扉が開いています。近づいてみましょう。何やら黒くて四角い物体が整然と並んでいます。この物体は、バッテリーだそうです。この施設は、ハマウィングの電力に余力がある時に電力を蓄える蓄電池システムで、なんと、ハイブリッドカープリウスの使用済バッテリーをリサイクルしているとのこと。その数、プリウス180台分だそうです。

蓄電池システム[(株)トヨタタービンアンドシステム]
蓄電池システム(株)トヨタタービンアンドシステム

 蓄電池システムの隣にある「物置き」の前へ来ました。左上に「TOSHIBA」のロゴが見えます。いったい何でしょうか。これは、水から水素をつくる施設、「水電解装置」だそうです。向かって右手の入口付近から、水道水が供給されています。この水を、ハマウィングで発電した電気で分解し、水素を取り出しているそうです。中にはどんな装置があるのだろうと、ワクワクしながら入口のドアを開けてみると、白い箱型の物体が中を占領しています。これが、水を電気分解して水素を取り出す「水電解ユニット」とのこと。

  • 水電解装置[(株)東芝]
    水電解装置(株)東芝
  • 水電解装置[(株)東芝]
    ★水道水
  • 水電解ユニット
    水電解ユニット

 入口から中に入ってみます。人が一人通れるスペースしかありませんが、通路を進んで水電解ユニットの裏側に回ってみました。残念ながら、ユニット内部の構造は見えませんでしたが、この水電解ユニットの中で生成された水素が上に向かって伸びている銀色のパイプを通って出てくるそうです。意外に細いパイプです。水素は軽いので、下から上へ出てくるのでしょうか。

  • 水電解装置[(株)東芝]
  • 水電解装置[(株)東芝]
    1水電解ユニットでつくられた水素はこのパイプを通過
    2純度を測定するために水素を抜き取るパイプ
水素貯蔵タンク[岩谷産業(株)]
水素貯蔵タンク岩谷産業(株)

 風力発電の電気で水素を「つくって」、ときたら次は、水素を「貯めて」いく工程ですね。どの施設だろうと敷地内を見回していると、中央付近にある円筒の施設に案内されました。大きいです。高さは10m程あるでしょうか。円筒の白い壁面に、このプロジェクトを表すロゴマークが描かれています。つくった水素は、燃料電池(FC)フォークリフトで使うのですが、FCフォークリフト12台を2日間稼動できる水素を貯蔵しているそうです。水素は、電気と異なり長期間貯めることができるので(電気は放電してしまいますよね)、水素の形で保管することには大きなメリットがあるそうです。

水素貯蔵タンク[岩谷産業(株)]
水素貯蔵タンク岩谷産業(株)
水素圧縮機[岩谷産業(株)]
水素圧縮機岩谷産業(株)

 では次は、水素を「運んで」いくところを見せていただけるのだろうと思ったら、その前に水素を圧縮する工程があるそうです。水素貯蔵タンクに隣接する3面の壁と天井に囲まれたスペースに案内されました。ここに、水素圧縮機があるとのこと。圧縮機というと相当大きな設備なのではないかと想像していましたが、現れたのは、意外にも高さ2m程の装置でした。この水素圧縮機は、2軸縦型のコンパクトな設計になっているそうです。

水素圧縮機[岩谷産業(株)]
水素圧縮機岩谷産業(株)
簡易型水素充填車[岩谷産業(株)]
簡易型水素充填車岩谷産業(株)]

 水素圧縮機の隣のブースに移動すると、水素貯蔵タンクと同じプロジェクトのロゴマークが塗装された、小型のトラックがとまっています。これは、日本初導入のFCフォークリフト用の簡易型水素充填車で、先ほどの水素圧縮機で圧縮した水素を、ユーザーがいるところまで運んでいくのだそうです。運べる水素量は、FCフォークリフト6台分。もっと大きなトラックで運んだ方が効率的なのでは?と思いましたが、フォークリフトを利用する場所は、倉庫など狭いところが多いので、わざと小型に設計しているそうです。

簡易型水素充填車[岩谷産業(株)]
簡易型水素充填車岩谷産業(株)]

 ここまで一通りプロジェクトの概要を見てきましたがこのプロジェクトは、ハマウィングの風力発電を利用して水から低炭素水素を「つくって」、「貯めて」、「運んで」、水しか排出しないFCフォークリフトで「使って」、低炭素な水素サプライチェーンモデルの構築を目指しているそうです。

 地球上では水に姿を変えている水素が、この場所で水素単体(H2)の状態で取り出され、運ばれていくまでを見て、興味深いと思うと同時に、水素が身近なエネルギーとなる時代が近づいてきていると感じることができました。

以上