2017年09月27日

2. はじめに

 

トヨタ自動車は、今から80年以上前に豊田自動織機製作所社内に設立された、当時まだ新しい技術であった自動車エンジンを研究するための部門として誕生しました。豊田喜一郎は、自動車で社会が変わると考え、移動できる機械(自動車そのもの)ではなく、それが人のモビリティに何をもたらすか、という本質が重要であることを理解していました。

今日、センサーコストの大幅な低下、コンピュータ能力の劇的な向上、人工知能システム開発における革命は、技術によって、再びモビリティに革命がもたらされる時が到来していることを意味しています。トヨタでは、自動運転技術が、人々を行きたい場所や行く必要のある場所へ安全かつ便利に移動させる手段として、利用可能な選択肢を拡大する可能性を秘めていると考えます。

重要なことは、1930年当時に豊田喜一郎が認識していたように、この画期的な技術によってもたらされる真の価値は、機械のそのものに存在するのではなく、それが社会に提供するものに存在するということです。つまり私たちの究極の目標は、クルマを自動化させることではなく、自動化を人々により広めることで安全、便利かつ楽しい移動を、誰もが享受できる社会を作り出すことなのです。

このビジョンを追求する上で、当社が何よりも重要と考えていることは安全性です。研究、開発、自動運転車のパフォーマンスの検証、そして、こうして私たちが実施してきたことがどのように社会に貢献するのかを考える上で、安全性を最優先させています。クルマは、様々な恩恵をもたらしているにもかかわらず、世界の道路上でクルマやトラックがかかわる事故で毎年百数十万人もの方々が亡くなっています。当社の自動運転研究プログラムは、長年自動車の安全性の改善を重視してきたトヨタの姿勢に沿ったものであり、「交通事故死傷者ゼロ」の将来に向けた長期目標を推進するものです。

予防安全技術および高度運転支援システム

そのため当社は、この分野の研究の成果をいち早くお客様が享受できるよう、予防安全技術および高度運転支援システムをトヨタとレクサスの車両で利用できるように努めています。たとえば、「Toyota Safety Sense」と「Lexus Safety System +」には、緊急自動ブレーキ、レーンディパーチャーアラート、オートマチックハイビームなどの予防安全技術がパッケージ化されています。2017年の年末までに、これらのパッケージは、日本、欧州、米国で販売されるほぼすべてのトヨタとレクサスの新型車に、標準装備ないしオプション設定されることになっています。

本白書は、当社の自動運転技術の商品開発全体の指針となる「Mobility Teammate Concept」や、当社の研究の柱となる「ガーディアン(高度安全運転支援)」と「ショーファー(自動運転)」という2つの自動運転コンセプトを含め、トヨタの自動運転車開発へのアプローチに関し包括的な概要を説明するものです。また、本白書は、現在までの当社の成果ならびに今後解決されるべき課題について理解を深めるための情報源として、参照していただきたいと考えています。

クルマに留まらず、モビリティサービス・プラットフォームからパーソナル・ロボット・ソリューションに至るまで、あらゆる技術革新と同じ様に、自動運転車がもたらすインパクトは、新たなビジネスモデルや製品カテゴリーも含めた幅広い範囲に及びます。まだ残された大きな課題はあるものの、当社は、人々を安全・安心に移動させる方法を提供し、世界中で人々の生活を豊かにすることに注力し続け、未来のモビリティ社会を切り拓く先導役となりたいと考えています。

トヨタの安全性にかかる哲学

トヨタは自動車の安全性に関して、人、クルマ、そして交通環境の3つの視点から考えています。このフレームワークにおいて、トヨタは、単に「クルマ」の安全技術を開発することだけに注力するのではなく、「人」に向けた教育プログラムの充実や政府や他のステークホルダーと連携し、「交通環境」の改善にも繋げ、真の安全を追求しています。

クルマの安全性の追求において、トヨタでは実安全の取り組みを続けています。トヨタではまず、事故調査や人間研究のデータを用いて「なぜ事故が起きたのか」「どのような原因でけがをしたのか」を解析、その事故を、さまざまなシミュレーションにより再現し、対策技術を開発します。さらに、実車実験で確認した上で商品化、その後も「市場での事故調査・解析」で効果を検証しています。このように、実安全とは、実際の事故に学び、改善を続けていくことで、常に安全性を高めていくという考え方です。トヨタは実際の事故に学び、改善をくり返し続けています。

トヨタの安全性にかかる哲学

この活動は、当社の「統合安全コンセプト」の下で結び付けられています。統合安全コンセプトは運転の個々の段階での衝突のリスクを軽減することに注力しています。これには、パーキング、予防安全、プリクラッシュセーフティ、衝突安全、救助が含まれています。1990年代から、トヨタは、この考え方を自動運転技術の開発にも応用しています。また、新しい技術の開発を通じて、車両側で軽減しうる事故原因の範囲を広げることにより、さらにお客様に安全なクルマをご提供しています。

統合安全コンセプトについて詳しく見る